北海道道66号(真狩村)
羊蹄山に続く道( © aachiii クリエイティブ・コモンズ・
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北海道の未来に向けた 識者からのことば
髙橋 清北見工業大学地域未来デザイン工学科 教授 「交通が描く多様な北海道の姿」
本提言書は、北海道の課題やポテンシャルを整理し、ミッションを明示した上で、交通から見た未来の北海道の姿を提言している。この提言書を読まれた方は、どのような北海道の未来像をイメージされただろうか? 未来像をイメージするためには、ありたい姿を共有することが肝要である。
現在、新たな北海道総合開発計画の中間整理において、ありたい姿「未来像」として、2050年の北海道の将来像が議論されている。そこでは、北海道の強みを活かし、豊かな北海道を実現することで国の課題解決に貢献し、デジタルの実装により地方部における定住・交流環境が維持され、国内外から人を魅きつける多様な暮らしを実現するとの提案がなされている。この将来像は、本提言に示されている、交通から見た北海道のありたい姿と一致する。
古来、人間は、距離を克服し、異なった集団間と多方面で交流することで、生産し、消費し、楽しみ、暮らしてきた。つまり人間は「交流する動物」であり、人間の歴史は交流の歴史でもある。この交流という本質的な活動で生じる「交通」は、人々の住まい方や活動、時には意識や価値観までも規定してきた。そしてこれからも交通の本質は不変であると想像される。それどころか、社会状況の変化により価値観が多様化する中で、交通が担う役割はより拡大することが考えられる。
交通は紛れもないリアルである。提言書が示す多様性に富んだ北海道の未来の姿を、リアルな交通で実現する取組が進展することを期待する。
岸 邦宏北海道大学大学院工学研究院 教授 「計画を実現するために」
国土計画の観点から全国の高規格幹線道路14,000kmのネットワークや新幹線、空港などの整備計画が策定され、全国的には整備が進む一方で、高規格幹線道路の未事業化区間の約半分は北海道であったり、新幹線の建設が進む一方で鉄道網の維持が困難である状況にある。人口減少、高齢化が全国よりも先んじて進んでいる北海道においては、経済効率性でインフラの整備を論じられると極めて不利な状況におかれる。しかし、そもそも北海道は計画で描かれていた地域の将来像が未だ実現されていないことが問題であると私は考える。
本提言では、北海道の将来の交通に関して、様々な視点で議論された成果が盛り込まれている。これらは本来これまで目指していた北海道の計画のあるべき姿の実現、そして北海道をさらにより良くするためのものと受け止めている。今後はこれらの実現に向けてどう関係機関や社会を動かしていくか、あるいは私たちが動いていくのか、が重要と考える。
北海道の課題に目が行きがちだが、カーボンニュートラルや食と観光は、北海道がアドバンテージを有し、わが国の先頭を切って進めていけるものである。実現までのロードマップを示し、その時の北海道の姿を共有し、本提言を踏まえて具体的に各主体が取り組んでいくことを議論し、実行すること、併せて実現に必要な制度設計の提案が、今後求められていくと考えている。
有村 幹治室蘭工業大学大学院工学研究科 教授 「北海道のトランスフォーメーション」
本書は北海道の建設コンサルタントで活躍する若手技術者を中心とした11名のメンバーが昼夜議論をつくして描いた、将来の北海道の交通インフラのあるべき姿についての提言である。提言のターゲットイヤーはカーボンニュートラル宣言や新しい北海道総合開発計画等との整合を図り、2050年に設定されている。
50年間を一区切りとして歴史を振り返ると、戦後間もない1950年代から2000年代、また2000年代から現在と、北海道の交通の姿は大きく変容してきた。鉄道はもとより、人口増加期の都市化を支えた自動車と道路の組み合わせによるモータリゼーションは、2020年代の現在、既にポスト・モータリゼーション期へと移行している。交通インフラは物理的構造物から情報インフラへと変貌しつつある。また人々が求める価値観も、量の拡充から質の向上、経済的効率化から生活の質や活動の意味の充実化へと変化している。
しかし人々の価値観が変化しようとも、我が国における地政学的な北海道の立ち位置は将来にわたって存在し続ける。人口増加期から減少期へと既に変曲点を超えた現在の北海道の活性化を考えると、技術論に根差した新しい挑戦が社会全体においても必要になることは自明であろう。
2050年は目の前にある私たちが共に迎える未来である。北海道が抱える課題は数多いが、果敢な意思決定と行動により変えることができる未来でもある。本提言をまとめた次代を担う若手技術者の活躍に期待する。